日本では2年または3年ごとに車検を受けることが法律で義務付けられています。しかし世界に目を向けると、車検制度は国や地域によって大きく異なる実情があります。アメリカのように連邦政府レベルでは車検制度がない国もあれば、日本よりもさらに厳格な検査を実施している国も存在します。本記事では日本の車検制度の基本的な仕組みから世界各国の多様な車検事情まで詳しく解説します。
日本の車検について正しく理解するためには、まず制度の正式名称と目的を把握することが重要です。車検の正式名称は「自動車検査登録制度」と呼ばれており、車両の安全性確保と所有権の公的な証明という二つの重要な役割を果たしています。
この制度では自動車が国の定める保安基準に適合しているかを様々な検査項目で確認します。同時に自動車の所有者を登録することで、所有権の公証も行っています。これにより道路を走行する全ての車両の安全性が担保されているのです。
一般的な乗用車の場合、新車購入時から最初の車検までの期間は3年間となっています。その後は2年ごとに定期的な検査を受けなければなりません。ただし車両の用途によって検査の頻度は変わります。貨物車やレンタカーなどの事業用車両では検査間隔がより短く設定されています。
日本の車検制度の歴史は1930年まで遡ります。当時は商用車であるタクシーやバスの安全性確保を目的として開始されました。公共交通機関として多くの乗客を運ぶこれらの車両には、高い安全基準が求められたためです。
その後自動車が一般市民にも普及するにつれて、1951年に車検制度が義務化されました。この時代は戦後復興期であり、急速に増加する自動車による交通事故を防ぐことが社会的な課題となっていました。
興味深いことに軽自動車は当初車検制度の対象外でした。しかし軽自動車の普及と性能向上に伴い、1973年に軽自動車も車検義務化の対象となりました。このように車検制度は時代の変化とともに対象範囲を拡大してきたのです。
車検制度導入の根本的な目的は交通安全の確保と事故の減少です。定期的な検査により車両の不具合を早期発見し、重大な事故を未然に防ぐことが期待されています。また環境保護の観点から排気ガス検査も重要な検査項目となっています。
現在では年間約2500万台の車両が車検を受けており、日本の交通安全を支える重要な制度として機能しています。この膨大な数の検査を支えるために、全国に多数の指定整備工場や車検場が設置されています。
世界の車検事情を調査すると、国や地域によって驚くほど多様なシステムが採用されていることが分かります。先進国の多くは何らかの車両検査制度を導入していますが、その内容や頻度は大きく異なっています。一方で車検制度そのものが存在しない国も数多く存在しているのが現実です。
アメリカの車検制度は特に複雑で興味深い構造となっています。連邦政府レベルでは統一された車検制度は存在しません。これが「アメリカには車検がない」と言われる理由です。しかし実際には州ごとに独自の検査制度が設けられており、州によって大きく異なる規則が適用されています。
例えばニューヨーク州では年次検査が義務付けられており、ブレーキやエンジン、サスペンションなどの重要部品について詳細な検査が実施されます。一方でモンタナ州やサウスダコタ州などでは定期検査制度が存在せず、車両登録時の検査のみで済む場合もあります。
カリフォルニア州では環境規制が特に厳格で、年1回の排気ガス検査が義務付けられています。この検査では大気汚染防止の観点から厳しい基準が設けられており、基準を満たさない車両は公道での走行が禁止されます。
テキサス州やフロリダ州などの一部の州では安全検査と排気ガス検査の両方を実施しています。検査費用は州によって異なりますが、一般的に20ドルから50ドル程度となっており、日本と比較すると非常に安価です。
ヨーロッパ諸国では比較的統一された車検制度が導入されています。ドイツでは「TÜV」と呼ばれる技術検査協会による厳格な検査が実施されており、2年ごとの定期検査が義務付けられています。この検査は非常に厳格で知られており、わずかな不具合でも合格できない場合があります。
フランスでは「Contrôle Technique」という名称で車検制度が運用されています。4年目から2年ごとの検査が必要となり、費用は約70ユーロ程度です。フランスの特徴は検査と修理が分離されていることで、検査で不合格となった場合のみ修理を行います。
イギリスでは「MOT」という検査制度があり、車両登録から3年後に最初の検査を受け、その後は毎年検査が必要です。検査項目には安全性に加えて環境への影響も含まれており、排気ガスやノイズレベルも測定されます。
一方でスイス、中国、カナダなどの国では統一された車検制度が存在しません。ただしこれらの国でも州や省レベルで独自の規制が設けられている場合があります。また新興国の中には購入後10年間は検査不要とする国もあり、経済発展段階によって制度の充実度が異なることが分かります。
北欧諸国では環境意識の高さを反映した検査制度が特徴的です。ノルウェーやスウェーデンでは排気ガス規制が特に厳格で、環境への配慮が重視されています。これらの国では電気自動車の普及も進んでおり、従来の車検制度も変化しつつあります。
世界各国の車検制度を比較する上で最も注目すべき点の一つが検査にかかる費用です。同じ先進国でありながら、車検費用には驚くほど大きな差が存在しています。この費用差は単純な物価の違いだけでなく、制度設計の根本的な違いに起因しています。
日本の車検費用は国際的に見て非常に高額です。一般的な普通乗用車の場合、1回の車検で10万円前後の費用がかかることは珍しくありません。この高額な費用の大部分を占めているのが税金と保険料です。
具体的には自動車重量税と自賠責保険料だけで約6万円程度必要となります。これに検査手数料と整備費用を加えると、最終的に10万円を超える金額になってしまいます。減税措置の対象車両であっても相当な負担となることは避けられません。
これに対してアメリカの州レベルでの検査費用は大幅に安価です。例えばテキサス州では年次安全検査の費用が約25ドル(約2400円)程度に設定されています。排気ガス検査を含めても50ドル程度で済む場合が多く、日本との格差は明らかです。
フランスの車検費用は約70ユーロ(約7000円)となっており、日本の10分の1以下の水準です。イギリスのMOT検査も同様に約50ポンド程度で実施されており、欧州諸国の車検費用は概ね日本よりもはるかに安価です。
この費用差が生じる最大の理由は検査と整備の実施順序にあります。日本では車検前に予防的な整備を行い、完璧な状態にしてから検査を受けるシステムとなっています。これは「事前整備・事後検査」と呼ばれる方式です。
一方で多くの海外諸国では「事前検査・事後整備」の方式を採用しています。まず現状のまま検査を受け、不合格項目があった場合のみ必要最小限の修理を行います。このため何も問題がない車両では検査費用のみで済むのです。
フランスを例に取ると、車検で不合格となった項目のみを修理して再検査を受けます。全ての項目が合格基準を満たしていれば追加の整備は不要です。これにより車両の状態が良好な場合は検査費用だけで車検が完了します。
現代の自動車は技術の進歩により信頼性が大幅に向上しています。適切にメンテナンスされた車両であれば、2年間で重大な不具合が発生する可能性は低くなっています。このような状況下では予防的整備の必要性も再検討の余地があると考えられます。
また日本の車検制度には税収確保という側面もあります。車検時に徴収される重量税は国の重要な財源となっており、単純に検査制度だけの問題ではない複雑な構造があります。
海外の事例を参考にすると、日本でも検査制度の見直しによって利用者負担を軽減できる可能性があります。ただし安全基準を下げることなく費用を抑制するには、制度全体の抜本的な改革が必要となるでしょう。
世界の車検制度を比較すると、各国の文化や経済状況に応じた多様なシステムが存在することが分かります。日本の車検制度は安全性確保の面では優秀ですが、費用負担の重さが課題となっています。技術進歩により車両の信頼性が向上した現在、より効率的で利用者に優しい制度への見直しが求められているのではないでしょうか。
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